土地家屋調査士の役割
新築の建物を建てたら、どの建物も我々調査士が現地調査して登記申請の仕事をしています。相続により土地を二つに分けるときも、測量会社ではなく必ず調査士が関与しています。古い建物の登記を何十年前にし忘れていることを現代で解消することや、土地の面積の正確な登記のし直し、境界の話し合いなどもそうです。境界立会いはある面、人との決闘であり、複雑な土地問題の解消は一本の丸太の橋の上を何回も渡ってゆくことに似ています。
自分はあまりこの仕事に不向きだと思う時もあります。この仕事が求めるものは忍耐と利他のように思われますが、それらが少々欠けているためです。利他とは、喜んで人の背景になることのようです。きっと、他のお仕事も全てこれなのだ、とも想像します。誰かがおっしゃっていましたが、調査士の仕事は「油絵のガクブチをつくる」こと。華やかなお仕事、成功者を時にうらやましく思うし、この仕事を憎みます。でもやっぱりこの地味さが好きです。
土地家屋調査士の職業倫理
昔、欠陥マンション問題で建築士の事件が話題になりましたが、私達、測量や不動産登記にたずさわる調査士も他人事ではありません。私達は客観的に土地を測量し、公正な態度で隣地境界についての立会いの場にいます。しかし仮に依頼者の不法な要求に応じてしまい、真実でない土地の境界を決めてしまったら大変なことになります。実務上は、さまざまなエピソードがあります。
普段から、土地の境について「とにかく、お互い了解したところに印を付けてくれたらそれで良い、そうすれば話が収まるんだから」というニュアンスの依頼は多いです。これは正しいことではありません。隣地同士が間違った土地境を了解している可能性があるからです。ほかに最近では「土地を二つに分ける登記をしてほしい。」というので依頼者に会いに行くと、真実の所有者が他人であることがわかり、所有者ご本人に確認を取ろうとしたら、うやむやになった例。新築建物の表題登記について、まだまるで建物が完成してないのに、年末に間に合わせたいので無理やり登記してほしいという要求。
「お金を払うのは誰だと思っているのだ。」という依頼者の気持ちはわかります。それが自分のお得意先で、今回断ったら今後仕事を切られてしまう、来月から生活できない、という切実な実情があるかもしれません。それでも、脱法的な要求にこたえることは理由を問わずできないと思います。
それは、国家の認めた資格だからだと思います。日本の国に住む方々全員から、公正で誠実に仕事をしてほしい、そしてそのような人だけに業務を扱ってもらいたいと求められている仕事、だから「国家資格」なのだと思います。やせ我慢、商売下手、お堅い頭と揶揄され、軽蔑されても、義務と責任を果たさなければなりません。公正や誠実、高い職業倫理は言葉では達成できません。